アザラシ、夏目漱石の『三四郎』を大いに語る。(その3)
おいっす!
読書するアザラシだ!!!
今回も三四郎について語っちゃうぜ!
ここまで長々と語ってきた『三四郎』だが
最終回である今回は、『三四郎』の最大の謎について語ろう!
一読して多くの人が思うのはまず、ストレイ・シープ…?だろう!
その単語を三四郎がもごもご呟いてる場面でストーリーは終わるのだ!
それから少しずつもやもやしてくるのが
なぜ美禰子は、兄の友人と結婚したのか?
という疑問ではなかろうか?!
そう美禰子は猛烈にアタックしていた野々宮さんでもなく、最後のほうで降って湧いたような兄の友人という属性をもつモブ男と結婚したのだ!
お前たけのこ派だったよな? なんでトッポ食ってんの?
という感じだ!
しかし、唐突にトッポを食べ始めてもそこまで悩む必要はないのかもしれない…!
女心は秋の空…!
野々宮さんがあまりに度胸がない人なので見切りをつけてちょうどいいところに来た縁談に乗った、ということではなかろうか?
そして戯れに恋心を弄んでいた三四郎には申し訳なさがあったのであの有名な言葉を言ったのだと…。
女はややしばらく三四郎をながめたのち、聞きかねるほどのため息をかすかにもらした。やがて細い手を濃い眉の上に加えて言った。
「我はわが愆 を知る。わが罪は常にわが前にあり」
聞き取れないくらいな声であった。それを三四郎は明らかに聞き取った。三四郎と美禰子はかようにして別れた。下宿へ帰ったら母からの電報が来ていた。あけて見ると、いつ立つとある。
「我はわが
これは聖書の言葉で、旧約の詩篇51篇にある一句だ!
どういうシチュエーションの言葉かというと
王ダビデが部下の妻と姦通し、色々面倒になったのでその部下を戦地に派遣して戦死させ、その後、未亡人となった部下の妻を娶る、というなかなか鬼畜なことをかまして、それを悔いたときの言葉だ!*1
美禰子はこんな言葉を三四郎への申し訳なさから呟いちゃったって訳になる。
これにて一件落着!
まとめると次のような感じだろう!
美禰子は結婚適齢期に迫られ、さらには兄も近々結婚するというので早々に身をかためなきゃいけなかった。結婚したいと思える野々宮さんは穴倉で光の圧力を測ってるばっかしだし、なんか勝手に好いてくる九州男児はまだ学生で金もなさそう。そんなところにお金もあって帝国大学も卒業してて学もあるような男との縁談がやってきた。
こんなチャンスを逃す機会はない!
美禰子は縁談を受け、無事に家庭に入ることができたのであった!
以後、幸せな家庭を築いていくのだろう!
しかし独身界に置いてきてしまった純朴童貞三四郎に対しては若干の罪悪感がある。
ごめんね、私のこと忘れて達者でね、という意味で「我はわが
こう読むと『三四郎』はとっても簡単なストーリーだ!
要は、上京してきた純朴童貞三四郎(23)が都会の『新しい女』である美禰子に振り回されたというお話になる。
そして最後には気が動揺しちゃって
「ストレイ・シープ、ストレイ・シープ」と呟くようになっちゃう…。
なんという悲劇!!!
三四郎、強く生きろ!!
…………。
本当にそんな物語なのか?
アザラシはそうではないと思うのでここまで一つの可能性を語ってきたのだ!!
そう、よし子、三四郎に恋していた説だ!!
この説さえ立証できれば、更なるストーリーが見えてくる!
が、非常に困難だということが前回までに分かってしまった…。
三四郎はよし子に対してバブみを感じておぎゃってるだけなのだ!!
そんな男に惚れるわけがない!
どうしようもねえ!!!
しかしここはよし子が三四郎に惚れているという体で行こう…!!
そうしたらどんな物語になるのか見て行こうじゃないか!
まず問題なのはよし子の好意に美禰子は気がついていたのか?という点だ!
おそらくだが気がついている!!
読者も気がつかないほどの好意だが、気がついているのだ!
だってあの与次郎ですら気がついてそうなのだ!
というのはこのシーン
ベルが鳴って、二人肩を並べて教場を出る時、与次郎が、突然聞いた。
「あの女は君にほれているのか」
二人のあとから続々聴講生が出てくる。三四郎はやむをえず無言のまま梯子段 を降りて横手の玄関から、図書館わきの空地 へ出て、はじめて与次郎を顧みた。
「よくわからない」
与次郎はしばらく三四郎を見ていた。
「そういうこともある。しかしよくわかったとして、君、あの女の夫 になれるか」
三四郎はいまだかつてこの問題を考えたことがなかった。美禰子に愛せられるという事実そのものが、彼女 の夫 たる唯一 の資格のような気がしていた。言われてみると、なるほど疑問である。三四郎は首を傾けた。
「野々宮さんならなれる」と与次郎が言った。
「野々宮さんと、あの人とは何か今までに関係があるのか」
三四郎の顔は彫りつけたようにまじめであった。与次郎は一口、
「知らん」と言った。三四郎は黙っている。
「また野々宮さんの所へ行って、お談義を聞いてこい」と言いすてて、相手は池の方へ行きかけた。三四郎は愚劣の看板のごとく突っ立った。与次郎は五、六歩行ったが、また笑いながら帰ってきた。
「君、いっそ、よし子さんをもらわないか」と言いながら、三四郎を引っ張って、池の方へ連れて行った。歩きながら、あれならいい、あれならいいと、二度ほど繰り返した。そのうちまたベルが鳴った。
ここで与次郎は暗にだけど三四郎は美禰子の夫にはなれない言っている。でも野々宮さんなら夫になれるらしい。
その上で、「君、いっそ、よし子さんをもらわないか」と言ったわけだ。つまり三四郎にはよし子とならその夫になる資格があるってこと。
三四郎は夫になる資格は愛されることだと考えてたわけだけど、自分は美禰子に愛されているかは分からないでいた。もしも与次郎も三四郎と同じ結婚観を持っているのならば、少なくともよし子は三四郎を愛すであろうことを知っていたってことになる。
もちろん、ここのシーンは三四郎を慰めるために与次郎が冗談で言った可能性もあるわけだし、与次郎の結婚観は三四郎と違っているわけだから成り立たない場合もある…。
失恋が確定した三四郎を励ます与次郎の言葉でその価値観は語られている!
「ばかだなあ、あんな女を思って。思ったってしかたがないよ。第一、君と
同年 ぐらいじゃないか。同年ぐらいの男にほれるのは昔の事だ。八百屋 お七 時代の恋だ」
三四郎は黙っていた。けれども与次郎の意味はよくわからなかった。
「なぜというに。二十 前後の同じ年の男女 を二人並べてみろ。女のほうが万事上手 だあね。男は馬鹿にされるばかりだ。女だって、自分の軽蔑 する男の所へ嫁へ行く気は出ないやね。もっとも自分が世界でいちばん偉いと思ってる女は例外だ。軽蔑する所へ行かなければ独身で暮らすよりほかに方法はないんだから。よく金持ちの娘や何かにそんなのがあるじゃないか、望んで嫁に来ておきながら、亭主を軽蔑しているのが。美禰子さんはそれよりずっと偉い。その代り、夫として尊敬のできない人の所へははじめから行く気はないんだから、相手になるものはその気でいなくっちゃいけない。そういう点で君だのぼくだのは、あの女の夫になる資格はないんだよ」
同い年の結婚は成り立たないというのが与次郎の価値観だ!
というわけで年下のよし子とならいい感じになるはずだろうってことで三四郎に勧めたという解釈の方が正しいのだろう…!!!
……終わりか?
与次郎はよし子の好意なんて気がついていなかったってことになる。
そもそもよし子の三四郎への好意など存在しなかったのか…?
いや、まだ慌てる時間じゃない!!
夫になる資格は、
夫を尊敬できるかどうか。
とも与次郎は言っている!
そうつまりは同い年になると男の方は見下されがち、だから資格がない。
という論理で三四郎を諭しているわけ!
なので年齢というより尊敬できるかどうかが与次郎の結婚価値観なのだろう!
つまり、あのときよし子を勧めたのはよし子が三四郎を尊敬してくれそうだからだ!
夫として尊敬できる、つまりは愛せるってこと!
そういうことなのだ!!!!
これでさっきの論理は破綻しまい…
かなーり強引だけど…!!
とりあえずここは与次郎がよし子⇒三四郎に気がついているのを示唆したシーンであるってことにしておこう!
となれば自動的に美禰子も気がついているわけだ!!
…自動的?
・・・・・・・・・。
ここは非常に悩ましいところだ…。
いつから美禰子はよし子の三四郎に対する好意を知っていたのか?
それは謎だが、最後のあのシーンの時には知っていたはずだ!!
そう三四郎の前で、
「我はわが
と呟いたときのこと!
さっきの解釈だとこれは三四郎に対する懺悔の言葉だ。
だが、よし子の三四郎への好意を美禰子が知っていたとして仮定したとき、この言葉の意味が変わる。
これは三四郎ではなく、よし子に対する懺悔になる。
なぜか?
それを答えるには少し大きな妄想をする必要がある…!!
そもそも美禰子はなぜ三四郎をキープしていたのだろう?
もちろん野々宮さんの気をひくために違いないし、作中でも何回か実際に三四郎を使って美禰子は野々宮さんに対してあてつけをやっている描写もある。
しかし本当にそれだけだったのだろうか。
もしかすると野々宮さんの妹であるよし子が三四郎に好意を持っていたからこそ、キープしあてつけの材料としていたのではないか。
野々宮さんは美禰子の好意に気がつきながらも、答えることなく穴倉で過ごそうとしている。美禰子はそんな態度に憎しみまで覚えていただろう。責任を逃れたがる人。そんな言葉にも表れている。そしてその憎しみは野々宮さんの家族までにも広がっていた。
つまりは、自分が得られないモノを野々宮さんの妹であるよし子にも与えたくなかった。自分が幸せになれないのにどうして彼の妹が幸せになれるのだろうという感じだ。
はたしてここまで美禰子が嫉妬深いかと言うと微妙なところだ!!!
全編を通してなかなかさっぱりした人物のようにも見える…
となれば美禰子は最後までよし子の好意などに気がついておらず、ただ戯れに、あるいは野々宮さんへのあてつけのために三四郎を弄んでいたのか?
というかそもそもよし子の三四郎への好意など存在しなかったのか…?
いや、まだだ!! まだ諦めるのには早い!!!
美禰子が最終的に結婚した相手はモブ男だと言ったがただのモブではないのだ…。
この男、よし子へも縁談の相談を出している…!!
なんと見境のない男…!!!
もちろん前回見たようによし子はそれを断ったように見える。
なので、縁談が美禰子のほうへと流れていったのは自然なことってなる。
本当にそうなのだろうか?
実はちょっとここに妄想の余地がある!
まずよし子が断った理由を思い出してみよう!!
三四郎は貸さないことにするむねを答えて、挨拶をして、立ちかけると、よし子も、もう帰ろうと言い出した。
「さっきの話をしなくっちゃ」と兄が注意した。
「よくってよ」と妹が拒絶した。
「よくはないよ」
「よくってよ。知らないわ」
兄は妹の顔を見て黙っている。妹は、またこう言った。
「だってしかたがないじゃ、ありませんか。知りもしない人の所へ、行くか行かないかって、聞いたって。好きでもきらいでもないんだから、なんにも言いようはありゃしないわ。だから知らないわ」
三四郎は知らないわの本意をようやく会得 した。兄妹をそのままにして急いで表へ出た。
というように、相手のことを知らないんだから判断できないとよし子は言っている。
さて、思い出してみるとこのとき話されている縁談の相手の男は美禰子の兄の友人である。ついでに言えば、その美禰子の兄、里見恭介と野々宮さんは同学年だ!
「美禰子さんのにいさんがあるんですか」
「ええ。うちの兄と同年の卒業なんです」
「やっぱり理学士ですか」
「いいえ、科は違います。法学士です。そのまた上の兄さんが広田先生のお友だちだったのですけれども、早くおなくなりになって、今では恭助 さんだけなんです」
これらを考慮すると縁談の男は、野々宮さんの友人でもあるだろう。むしろそうでないとあのシスコン気味の野々宮さんが妹に縁談を持ってくる気がしない。相手が知っている男だからこそ、野々宮さんは家族を通してから妹に縁談を持ちかけたってわけ。
実はモブ男と美禰子、そしてよし子の関係性が微妙に示唆されているシーンがある。
それは、最後のほうで三四郎が演劇を見に行ったときのことだ。
幕がまたおりた。美禰子とよし子が席を立った。三四郎もつづいて立った。廊下まで来てみると、二人は廊下の中ほどで、男と話をしている。男は廊下から
出 はいりのできる左側の席の戸口に半分からだを出した。男の横顔を見た時、三四郎はあとへ引き返した。席へ返らずに下足を取って表へ出た。
この男がおそらくだが、件のモブ男だ!
ここはちょっと説明が必要かもしれない。
このシーンの少し前に三四郎はモブ男が美禰子を迎えに来ているとこに遭遇している。
向こうから車がかけて来た。黒い帽子をかぶって、金縁の
眼鏡 を掛けて、遠くから見ても色光沢 のいい男が乗っている。この車が三四郎の目にはいった時から、車の上の若い紳士は美禰子の方を見つめているらしく思われた。二、三間先へ来ると、車を急にとめた。前掛けを器用にはねのけて、蹴込 みから飛び降りたところを見ると、背のすらりと高い細面 のりっぱな人であった。髪をきれいにすっている。それでいて、まったく男らしい。
「今まで待っていたけれども、あんまりおそいから迎えに来た」と美禰子のまん前に立った。見おろして笑っている。
「そう、ありがとう」と美禰子も笑って、男の顔を見返したが、その目をすぐ三四郎の方へ向けた。
「どなた」と男が聞いた。
「大学の小川さん」と美禰子が答えた。
男は軽く帽子を取って、向こうから挨拶 をした。
「はやく行こう。にいさんも待っている」
このあとに三四郎は美禰子が縁談を受けたとの噂を聞くことになる。
そして上の劇場のシーンで、その縁談の相手が誰だか三四郎は悟ってしまうわけだ!
ショックを受けて三四郎は寝込んじゃうわけなんだけど、今はそこではなく別のところに注目しよう!
美禰子とよし子は連れ立って席を立ち、廊下であった男と話しているわけだ。この三人はお互いに面識があるわけで、ある意味知り合いってことになる。
つまりはよし子も以前からモブ男を知っていたってわけ!!!
となれば、よし子の縁談を断る理由も無くなってしまうのだ!!
いや、待とう。
論理の飛躍がある。
美禰子とモブ男はたしかに知り合いだ。それは作中で描写されている。そして話きっかけとしてはそれだけで十分だ。
つまり美禰子がモブ男に初対面のよし子を紹介していた可能性もある。
よし子が知らない男だと言い放ち、縁談を断ったのは不思議なことではない。
・・・・・・。
上のような反論が出来るために、この演劇のシーンは三人の以前からの関係を示唆するものとしては弱いかもしれない...。
だが!!!
里見、モブ男、野々宮ラインは生きている!!
ここで妹たちも知り合いになっていたと仮定しよう…!
そうなるとさっき言ったようによし子の断る理由が無くなる!!!
なぜなら相手は兄の友人であり、知っている人物だからだ!!
でも、よし子は結果的に縁談を断っている。
どうやってだろうか?
そう、ここでよし子は三四郎への好意を兄に教えたのかもしれない!
それを理由によし子は縁談を断ろうとした。
だがそもそもよし子に拒否権はあったのだろうか?
家族にまで通した話を断るには相当に強い理由が必要だ。
それこそ、他で縁談が先に決まってしまったというような…。
ここで美禰子の話に戻る。
このときまでによし子の好意を知っていたかは謎だ。
だが、よし子にこの縁談の話が来てから一悶着があったらとしたら、美禰子もよし子の三四郎への好意を知る機会ができるのだ!!
やっとここまで漕ぎつけた!!
美禰子はよし子の三四郎への好意を知っていたのだ!!!
となると
美禰子がなぜモブ男と結婚したのか?
この疑問に対してもう一つの解釈が出来ることになる!
それはすなわち、よし子への贖罪である!!
これはどういうことか?
縁談の話が来るときまで美禰子は三四郎の好意をそのままにしてきたことは事実だ。
そのことでよし子の想いは三四郎に届かないでいた。
ある意味、よし子の恋路を美禰子は邪魔していたわけだ。
さて美禰子が縁談を承諾すれば、当然のごとくよし子は自由になれる。
そしてよし子は少なくとも三四郎への想いを断念しなくとも済む。
邪魔してきた分の時間は取り戻せなくとも、作ることは出来る。
こうして美禰子の結婚はよし子への贖罪となる。
証明終了!!
きゅーいーでいー!! わーい!!!
・・・・・・。
少し強引すぎやしないか・・・?
純朴童貞三四郎くんが勝手に惚れてきたのだから美禰子さんにそこまで非はないはずだ!!
なのでよし子に対する罪と言えるほどのものでもないし、その上によし子も気にしてないように見える!
しかれど!
さすがに贖罪は言い過ぎだけど美禰子がモブ男との結婚を決めた理由として
よし子のためを思ってというのも含まれていると思う!!
美禰子はよし子が旧社会の風習の犠牲にならないように身をもって庇ったという解釈ならそこまで無理もないはず!
ここまでながながと語ってきたけど、
そろそろまとまりが無くなってきたので
いったん終わりにしたいと思う!!
正直、ここまで三四郎について語るとは思わなかった…。
しかし、よし子関連だけしか語れていないのはちょっと残念だ!
『三四郎』には『森の女』と『迷羊』の対比とか広田先生の過去とか色々まだまだ魅力的なところがたくさんある!!
読んでも決して損はない小説だ!!
ぜひこの機会に読んでほしい!!
それでは、アディオス!!
(ω・ミэ )Э