読書するアザラシ

アザラシの読書録 

アザラシ、夏目漱石の『三四郎』を大いに語る。(その2)

おいっす!!!

 

読書するアザラシだ!

 

 

三四郎 (角川文庫)

三四郎 (角川文庫)

 

 

前回は『三四郎』を三角関係ラブコメとして読むために、よし子を参戦させるところで終わった!

 

 最終章にすら出てこなかった影の薄い女

三四郎』界隈では称されているよし子だが

果たして三角関係に参入できるのだろうか…?

 

とりあえず三四郎とよし子の出会いの場面を確認してみよう!

 

 目の大きな、鼻の細い、くちびるの薄い、はちが開いたと思うくらいに、額が広くってあごがこけた女であった。造作はそれだけである。けれども三四郎は、こういう顔だちから出る、この時にひらめいた咄嗟とっさの表情を生まれてはじめて見た。青白い額のうしろに、自然のままにたれた濃い髪が、肩まで見える。それへ東窓をもれる朝日の光が、うしろからさすので、髪と日光の触れ合う境のところが菫色すみれいろに燃えて、生きたつきかさをしょってる。それでいて、顔も額もはなはだ暗い。暗くて青白い。そのなかに遠い心持ちのする目がある。高い雲が空の奥にいて容易に動かない。けれども動かずにもいられない。ただなだれるように動く。女が三四郎を見た時は、こういう目つきであった。
 三四郎はこの表情のうちにものうい憂鬱ゆううつと、隠さざる快活との統一を見いだした。その統一の感じは三四郎にとって、最も尊き人生の一片である。そうして一大発見である。三四郎はハンドルをもったまま、――顔を戸の影から半分部屋の中に差し出したままこの刹那せつなの感にみずからを放下ほうげし去った。

「おはいりなさい」
 女は三四郎を待ち設けたように言う。その調子には初対面の女には見いだすことのできない、安らかな音色ねいろがあった。純粋の子供か、あらゆる男児に接しつくした婦人でなければ、こうは出られない。なれなれしいのとは違う。初めから古い知り合いなのである。同時に女は肉の豊かでないほおを動かしてにこりと笑った。青白いうちに、なつかしい暖かみができた。三四郎の足はしぜんと部屋の内へはいった。その時青年の頭のうちには遠い故郷にある母の影がひらめいた。

 

三四郎』:夏目漱石

 

ここまで細やかに描写するか?!

というレベルの登場シーンだ。

ラノベでここまで書いてあったらメインヒロインだと思うだろう!!

というかふつーのその辺にある小説でもそうだ。

この登場の仕方は明らかに攻略対象キャラである。

 

 

当然このあとも三四郎はよし子と会ったりする。

 

そのときもはじめてあったとき同様に

バブみを感じておぎゃってるのが三四郎である。

 

 三四郎は蒲団を敷いた。門をはいってから、三四郎はまだ一言ひとことも口を開かない。この単純な少女はただ自分の思うとおりを三四郎に言うが、三四郎からはごうも返事を求めていないように思われる。三四郎は無邪気なる女王の前に出た心持ちがした。命を聞くだけである。お世辞を使う必要がない。一言でも先方の意を迎えるような事をいえば、急に卑しくなる、おしの奴隷のごとく、さきのいうがままにふるまっていれば愉快である。三四郎は子供のようなよし子から子供扱いにされながら、少しもわが自尊心を傷つけたとは感じえなかった。

 

三四郎』:夏目漱石

 

三四郎はどうもよし子に対して家族愛とか母性とかそういう方面で惹かれているように見える。

 

対する美禰子は、セクシーでミステリアスな女だ...!

  女はこの句を冒頭に置いて会釈えしゃくした。腰から上を例のとおり前へ浮かしたが、顔はけっして下げない。会釈しながら、三四郎を見つめている。女の咽喉のどが正面から見ると長く延びた。同時にその目が三四郎ひとみに映った。
 二、三日まえ三四郎は美学の教師からグルーズの絵を見せてもらった。その時美学の教師が、この人のかいた女の肖像はことごとくヴォラプチュアスな表情に富んでいると説明した。ヴォラプチュアス! 池の女のこの時の目つきを形容するにはこれよりほかに言葉がない。何か訴えている。えんなるあるものを訴えている。そうしてまさしく官能に訴えている。けれども官能の骨をとおして髄に徹する訴え方である。甘いものにえうる程度をこえて、激しい刺激と変ずる訴え方である。甘いといわんよりは苦痛である。卑しくこびるのとはむろん違う。見られるもののほうがぜひこびたくなるほどに残酷な目つきである。しかもこの女にグルーズの絵と似たところは一つもない。目はグルーズのより半分も小さい。

 

三四郎』:夏目漱石

 

  ヴォラプチュアス!

 

……ヴォラプチュアス?

謎な用語が出てきたけどこれは英語でスペルはこう!

voluptuous

意味は肉感的なとか官能的なとかそんな感じ!

 

あとグルーズなる画家の絵は次のリンクにあるので覗いてみるといい!

 

toyokeizai.net

 

なかなかコケティッシュな絵だ…。

 

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コケットリーな絵画を見たアザラシ。にやけている。

 

 さて、こんなふうに見ると三四郎の前には二つのタイプの女性が現れたのだと分かる。

 

一人は美禰子。ヴォラプチュアス、たぶん今風に言えばコケットリーな女性

 

もう一人はよし子。こっちは母性のある、今風に言えばバブみの深い女の子

 

これはけっこう明確な対立項で、漱石も狙ってやってるんじゃないかと思う。

どっちも純朴童貞にはどストライクなキャラだし…。

実際のところ、上で見たように三四郎はどちらの女性に対しても魅力を感じている。

矢印としては三四郎から二人に対して引けるわけだ!

 

じゃあ、二人からの矢印はどうだろう…?

 

というか三四郎という男にはどんな魅力があるのだろう…?

 

とりあえず三四郎帝国大学の本科生だ!!!

これってかなりのエリート!!

頑張れば未来はお金持ちになれるルートもある!!

が、先輩である広田先生、野々宮さんを見ていると不安しかない…

あとは身長が165cmくらい!!

いい感じの背丈だ!

ついでに広田先生は170cmくらい!

当時としてはかなりの高身長だ!

それでも独身!ふしぎ!!

 

こうみると三四郎に魅力があるのか分からない…。

が、読んでるとなかなか素直で真面目な青年だという印象がある!

スペック的にはとりあえずモテそうではある!ちょっとプライドも高そうだけど!

 

 

というか行きずりの女性やら、三輪田のお光さんやらには好かれるような男なので絶望的にモテないわけでもないだろう。

ついでに三四郎の幼なじみであるお光さんは三四郎のおっかさんにとってのお嫁さん筆頭候補である!

 

 大学の制服を着た写真をよこせとある。三四郎はいつかってやろうと思いながら、次へ移ると、案のごとく三輪田のお光さんが出てきた。――このあいだお光さんのおっかさんが来て、三四郎さんも近々きんきん大学を卒業なさることだが、卒業したらうちの娘をもらってくれまいかという相談であった。お光さんは器量もよし気質きだても優しいし、家に田地でんちもだいぶあるし、その上家と家との今までの関係もあることだから、そうしたら双方ともつごうがよいだろうと書いて、そのあとへ但し書がつけてある。――お光さんもうれしがるだろう。――東京の者は気心きごころが知れないから私はいやじゃ。

 

三四郎』:夏目漱石

 

幼なじみ…。しかも家族公認…。

ブコメにおいては最強の武器であり、最高の敗北フラグでもある…。

お前のことは異性として見られないという言葉でどれだけの幼なじみが沈んでいったかことか…。

果たしてお光さんが勝つ未来はあるのだろうか…?!

まあ、今それはどうでもいいことなので打っちゃっておこう!

 

 

さて、三四郎もなかなかいい男だと分かった!

次の段階に移行しよう!

 

ここで作中に見つけなければならないのは

よし子に対するフラグだ!!

 

これさえ捏造すればブコメ的三角関係が完成する!!

 

ではよし子フラグの捏造元もとい、根拠になりそうなところを探ってみる!

 

…。

……。

………。

 

見あたらねえ!!!

 

基本的に三四郎はよし子に対して

バブみを感じておぎゃってるだけなので、

よし子の心を動揺させるようなことはあまりしていない…。

 

確かに初対面のときよし子の顔をじっと見つめて、

頬を紅く染めさせたということはしている。

 

二人が話をしているあいだ、よし子は黙っていた。二人の話が切れた時、突然、
「ゆうべの轢死を御覧になって」と聞いた。見ると部屋のすみに新聞がある。三四郎が、
「ええ」と言う。
「こわかったでしょう」と言いながら、少し首を横に曲げて、三四郎を見た。兄に似て首の長い女である。三四郎はこわいともこわくないとも答えずに、女の首の曲がりぐあいをながめていた。半分は質問があまり単純なので、答に窮したのである。半分は答えるのを忘れたのである。女は気がついたとみえて、すぐ首をまっすぐにした。そうして青白い頬の奥を少し赤くした。三四郎はもう帰るべき時間だと考えた。

 

三四郎』:夏目漱石

 

あと三四郎はよし子の水彩画をお世辞で褒めてた!

 

「絵をお習いですか」
「ええ、好きだからかきます」
「先生はだれですか」
「先生に習うほどじょうずじゃないの」
「ちょっと拝見」
「これ? これまだできていないの」とかきかけを三四郎の方へ出す。なるほど自分のうちの庭がかきかけてある。空と、前の家のかきの木と、はいり口の萩だけができている。なかにも柿の木ははなはだ赤くできている。
「なかなかうまい」と三四郎が絵をながめながら言う。
「これが?」とよし子は少し驚いた。本当に驚いたのである。三四郎のようなわざとらしい調子は少しもなかった。

 三四郎はいまさら自分の言葉を冗談にすることもできず、またまじめにすることもできなくなった。どっちにしても、よし子から軽蔑けいべつされそうである。三四郎は絵をながめながら、腹の中で赤面した。

 

三四郎』:夏目漱石

 

この水彩画は最終的にボツになるんだけど…。

しかしその流れでお茶をして縁側でのんびりお話しすることになったのはよし子の好感度的にプラスなことなのかもしれない。気軽に話せるというのはなかなかいい関係だ!

 

しかし、これだけでよし子は三四郎に惚れるのか…?

 

それってやばくね???

ちょろインどころじゃない気もするけど、まあいいだろう!

 

惚れる描写はなかなか見つからなかったが、惚れてるのでは?という描写は少しある!

 

まずは自分の縁談の話を三四郎の前でするのを嫌がったところ!

 

 三四郎は貸さないことにするむねを答えて、挨拶をして、立ちかけると、よし子も、もう帰ろうと言い出した。
「さっきの話をしなくっちゃ」と兄が注意した。
「よくってよ」と妹が拒絶した。
「よくはないよ」
「よくってよ。知らないわ」
 兄は妹の顔を見て黙っている。妹は、またこう言った。
「だってしかたがないじゃ、ありませんか。知りもしない人の所へ、行くか行かないかって、聞いたって。好きでもきらいでもないんだから、なんにも言いようはありゃしないわ。だから知らないわ」
 三四郎は知らないわの本意をようやく会得えとくした。兄妹をそのままにして急いで表へ出た。

 

三四郎』:夏目漱石

 

「だから知らないわ」

 

なかなか意味深な言葉…。

単純にここはよし子を『新しい女』として書いているのかもしれないが、

ブコメで考えると、

縁談に興味を持つ自分を三四郎に見せたくがない故の反応に見える!!

 

続いて風邪を引いた三四郎を見舞いに来たところ!!

 

 ところへ下女が障子をあけて、女のお客様だと言う。よし子が、そう早く来ようとは待ち設けなかった。与次郎だけに敏捷びんしょうな働きをした。寝たまま、あけ放しの入口に目をつけていると、やがて高い姿が敷居の上へ現われた。きょうは紫のはかまをはいている。足は両方とも廊下にある。ちょっとはいるのを躊躇ちゅうちょした様子が見える。三四郎は肩を床から上げて、「いらっしゃい」と言った。
 よし子は障子をたてて、枕元まくらもとへすわった。六畳の座敷が、取り乱してあるうえに、けさは掃除そうじをしないから、なお狭苦しい。女は、三四郎に、
「寝ていらっしゃい」と言った。三四郎はまた頭を枕へつけた。自分だけは穏やかである。
「臭くはないですか」と聞いた。
「ええ、少し」と言ったが、べつだん臭い顔もしなかった。「熱がおありなの。なんなんでしょう、御病気は。お医者はいらしって」
「医者はゆうべ来ました。インフルエンザだそうです」
「けさ早く佐々木さんがおいでになって、小川が病気だから見舞いに行ってやってください。何病だかわからないが、なんでも軽くはないようだっておっしゃるものだから、私も美禰子さんもびっくりしたの」
 与次郎がまた少しほらを吹いた。悪く言えば、よし子を釣り出したようなものである。三四郎は人がいいから、気の毒でならない。「どうもありがとう」と言って寝ている。よし子は風呂敷包ふろしきづつみの中から、蜜柑みかんかごを出した。
「美禰子さんの御注意があったから買ってきました」と正直な事を言う。どっちのお見舞みやげだかわからない。三四郎はよし子に対して礼を述べておいた。
「美禰子さんもあがるはずですが、このごろ少し忙しいものですから――どうぞよろしくって……」
「何か特別に忙しいことができたのですか」
「ええ。できたの」と言った。大きな黒い目が、枕についた三四郎の顔の上に落ちている。三四郎は下から、よし子の青白い額を見上げた。はじめてこの女に病院で会った昔を思い出した。今でもものうげに見える。同時に快活である。頼りになるべきすべての慰謝を三四郎の枕の上にもたらしてきた。
「蜜柑をむいてあげましょうか」
 女は青い葉の間から、果物くだものを取り出した。かわいた人は、にほとばしる甘い露を、したたかに飲んだ。
「おいしいでしょう。美禰子さんのお見舞みやげよ」
「もうたくさん」
 女はたもとから白いハンケチを出して手をふいた。
「野々宮さん、あなたの御縁談はどうなりました」
「あれぎりです」
「美禰子さんにも縁談の口があるそうじゃありませんか」
「ええ、もうまとまりました」
「だれですか、さきは」
「私をもらうと言ったかたなの。ほほほおかしいでしょう。美禰子さんのおあにいさんのお友だちよ。私近いうちにまた兄といっしょに家を持ちますの。美禰子さんが行ってしまうと、もうご厄介やっかいになってるわけにゆかないから」
「あなたはお嫁には行かないんですか」
「行きたい所がありさえすれば行きますわ」
 女はこう言い捨てて心持ちよく笑った。まだ行きたい所がないにきまっている。

 

 

三四郎』:夏目漱石

 

見舞いに来てくれるっていいよね…!

しかもこれ、よし子学校帰りに来てくれてる!

好感度高くないと起きないタイプのイベントだ!

三四郎、おまえよし子を惚れさせてたな…?(描写外で)

 

 

…。

いや分かっている!!! 

どう考えても見捨てておけない会話があるのは分かっている!!!

 

「あなたはお嫁には行かないんですか」
「行きたい所がありさえすれば行きますわ」
 女はこう言い捨てて心持ちよく笑った。まだ行きたい所がないにきまっている。

 

これは脈なしか…?

 

ここまで必死によし子を参戦させようとしてきたが…

さすがにもう無理なのでは…?

そもそもこの女学生よし子は『新しい女』の類型例に過ぎず、ただなんとなしに物語に出てきただけなのでは…?

 

しかし漱石は意味もなく対比を使わないはずだ!!

 

上で見たようによし子と美禰子は対比関係にある!!

そうつまりはダブルヒロイン制だ!!

だったらこの会話だってよし子の照れ隠しだし早く告白してよというサインにちがいないのだ!!

きっとそうなのだ!!!

 

ということでよし子も三四郎を巡る三角関係に参入できた

 

やったぜ!!

これで三四郎三角関係ラブコメの仲間入りだ!!

だいぶ強引だったが…。

 

しかし強引に解釈したのも理由がある!!

 

 

三四郎』において最大の謎は何か?

 

美禰子の結婚である!!

 

なぜ美禰子は野々宮さんではなく、そして三四郎でもなく、兄の友人と結婚したのか…?

 

そして美禰子の罪とは一体何だったのか?

 

これのことについてよし子参戦によりそれなりの解釈が出来るようになる!!

 

次の最終回でそのことを話そう…!!

 

 (ω・ミэ )Э